2023年3月よりJANPIAで活動を始めたインターン生の「活動日誌」を発信していきます。第2回は、21年度通常枠の実行団体である社会福祉法人 長野県社会福祉協議会〈コンソーシアム申請〉(資金分配団体:公益財団法人長野県みらい基金)の取り組みについてのリポートです!
JANPIAにてインターン生として活動しているSです。
今回は長野県社会福祉協議会にお邪魔し、社会的養護の取組についてお話を伺ってきました。
その内容をレポートします。
1. 長野県社会福祉協議会とは
長野県社会福祉協議会(以後、長野県社協)は、昭和26年(1951年)に設立された団体で、長野県における社会事業や社会福祉を目的とする事業の健全な発達及び、社会福祉に関する活動の活性化により、地域福祉の推進を図ることを目的とした団体です。
現在では、「ともに生きる ともに創る 地域共生・信州」を目標に、様々な個性や多様性を持つ人々が人のあたたかさに包まれる地域の中で安心して暮らすことができ、その人らしい居場所を出番がある地域共生社会の実現を目的とした様々な取り組みを行っています。
長野県社協は公益財団法人長野県みらい基金が実施する21年度通常枠事業「誰もが活躍できる信州「働き」「学び」「暮らし」づくり事業」にて事業申請し、「社会的養護出身の若者の支援」を行う、実行団体として採択を受け活動を行っています。
2.「社会的養護出身の若者サポートプロジェクト」を始めた経緯
今回は長野県社協の数多くある取り組みの中から、「社会的養護出身の若者サポートプロジェクト」について。長野県社協常務理事の竹内さん、まちづくりボランティアセンター所長の長峰さん、若者支援担当職員の傳田さん、専門員の横山さんにお話を伺って来ました。

2-1. 「社会的養護」って?
「社会的養護」という言葉は聞き馴染みのない言葉ですが、こども家庭庁の定義によると「保護者のない児童や、保護者に監護させることが適当ではない児童を、公的責任で社会的に養育し、保護するとともに、養育に大きな困難を抱える家庭への支援を行うこと」とされています。
長野県には現在14か所児童養護施設が存在し、約400名近くの児童がそこで生活をしています。
2-2. なぜ社会的養護出身の若者の支援を始めたのか?
取材前から疑問に感じていた、社会的養護出身の若者の支援を始めるにあたった経緯をお尋ねしたところ、その経緯は意外なものでした。

長野県社協は、長野県を襲った台風19号の災害を受けて、20年度に休眠預金活用事業でシェアハウスに人を呼ぶ事業を開始しました。そのシェアハウスにコロナで収入が減った若者から入居の相談があり彼らの事情を聞くことに。すると若者のなかでも特に社会的養護出身の若者が直面する困難が浮き彫りになり衝撃を受けたそうです。
現行の法制度では、社会的養護に該当するのは「児童福祉法」の範囲内の18歳まで。18歳を超えると公的な支援が一切途切れてしまい、社会的養護施設を出た若者は十分な支援も受けられない中で社会に参画しなければならないという現状が存在するとのこと。
これまで、社会的福祉の分野であまり焦点が当てられてこなかった、「社会的養護出身の若者」を支援する事業を始めることになったそうです。
2-3. 社会的養護出身の若者の支援を始める上での課題
社会的養護出身の若者の支援を始める上で、長野県社協が抱えていた課題は、専門性やノウハウが不足していたということでした。
そこで養護施設で長年勤務し現場の実情に精通している傳田さんをチームに加え、児童養護施設への働きかけを始めたそうです。

傳田さんは養護施設側が抱えている課題についてこう語って下さいました。
「養護施設の園長さんなどは、外部との交流がなく、行政などの支援の情報などが耳に入ることが少ない。また、自分たちでなんとかしようとする意識が強く、同じ地域にいても社協などとの連携もなく、どうしてもサポートの幅が狭くなってしまう」
このような課題認識の下、様々な地域の社協やNPO、企業を巻き込んだ支援の枠組みについて説明して下さいました。
3. 「長野県社会福祉協議会」の取り組み
ここからは長野県社協が社会的養護出身の若者に対して行っている、「まいさぽ」を通じた就労支援、「どこでも実家宣言」について取材した内容を紹介します。
3-1. 「まいさぽ」について
長野県社協では、既存の事業である「まいさぽ」と児童養護施設との連携事業を進めています。
「まいさぽ」とは、相談支援員や就労支援員が相談者との面談を通してニーズを把握し、相談者の状況に応じた支援が行われるよう、共にサポートプランを作成し、様々な支援につなげる事業です。
この「まいさぽ」の就労支援の中の「プチバイト」に児童養護施設の若者をつなげるという取り組みが、長野県社協が児童養護施設との連携で進めている事業内容です。
プチバイトとは、社会福祉法人経営者協議会の会員から協賛を募り、地域の協力事業所で職場体験したまいさぽの相談者に1時間800円の給付を行う事業です。職場体験きっかけとして社会との関係をつなぎ直し、就労の機会を開いていくことが目的とされています。
児童養護施設にいる若者は、「人(大人)が苦手」「コミュニケーションが苦手」といった人や社会に対しての恐怖心などが強く、成功体験が少ないという課題を抱えている人も少なくないそうです。
そんな彼らに対して、「プチバイト」という試験的な形で若者が抱える課題に対して理解のある事業者の元で就労体験を積むことのできる枠組みを用意したことには効果があったと傳田さんは語ります。
実際に「プチバイト」に参加した高校3年生のKさんは、以前務めていたバイト先はどこも長く続かず、社会参画に苦手意識を感じていた状態から、就労先での業務に楽しさを覚え、その会社への就職を希望するようになったそうです。
3-2. 「どこでも実家宣言」の広がり
傳田さんが紹介して下さった長野県社協が取り組んでいるもう一つの事業として、「どこでも実家宣言」があります。
「どこでも実家宣言」とは、親の支えがなく社会に参画する若者にとって、市町村社協が「実家」のように安心できて頼ることができる場所として機能するようにという目的で新しく傳田さんたちが始めた事業です。
長野県にある各市町村の社会福祉協議会に働きかけ、どの社協にも下記の写真のような「どこでも実家宣言」の設置を目指しているそうです。現在、「どこでも実家宣言」に参画している長野県内の社協は33件(2023年8月29日現在)に及び、地域・エリアを超えてこどもや若者をサポートする環境の整備にむけての取り組みを進めています。
4. さいごに
今回インタビューをさせて頂いた長野県社協での取り組みの中で痛感したのは、地域として社会参画に課題を抱える若者などをサポートしていく体制の重要さです。
「どこでも実家宣言」のような若者が安心感ももって頼ることのできる暖かさを感じさせる取り組みや、傳田さんの「成功体験を積ませてあげる必要がある」といった言葉に表れていたような、地域として若者が一歩ずつ前に進んでいける環境をつくること。
そういった「ソフト」な働きかけの重要性を今回の取材で学ばせて頂きました。
■ 事業基礎情報
実行団体 | 社会福祉法人 長野県社会福祉協議会〈コンソーシアム:幹事団体〉 〈構成団体〉 |
事業名 | 社会的養護出身の若者サポートプロジェクト |
活動対象地域 | 長野県内全域 |
資金分配団体 | 公益財団法人 長野県みらい基金 |
採択助成事業 | 2021年度通常枠 |
今回の活動スナップは、全日本空輸株式会社(ANA)と株式会社ワンスペース(22年度緊急支援枠/資金分配団体:公益財団法人みらいファンド沖縄)が行ったオンラインジョブツアーの様子をお伝えします。
活動概要
公益財団法人みらいファンド沖縄(以下、みらいファンド沖縄)は、コロナ禍で子どもたちの体験や交流が失われたという課題解決に向け、人との直接的な接触を避けながらできる「配信技術を活用したコンテンツ」に着目し、「みんなの配信と交流プラットフォーム〜コロナ禍で失った体験や発信、交流を再構築〜」として休眠預金活用事業に取り組んでいます。
その実行団体として株式会社ワンスペース(以下、ワンスペース)は「オンラインジョブツアー」を軸としたプログラムを実施し、沖縄の子どもたちに働くことや仕事について身近に考える機会を提供してきました。 今回、JANPIA企業連携チームの仲介により、ワンスペースの考えや思いに賛同いただいた全日本空輸株式会社(ANA)とのオンラインジョブツアーが2024年2月に実現しました。

活動スナップ
ANAグループ総合トレーニングセンター「ANA Blue Base」の空港を模した施設と沖縄県の2つの小学校を繋ぎ、ANAグループには様々な仕事があること、飛行機1機を安全に運航させるために多くの人が携わっていること等を、クイズやデモンストレーションを交えて紹介しました。Q&Aでは、子どもたちからの質問が止まらず、好奇心や関心の高さが画面越しに伝わってきました。

【事業基礎情報】
実行団体 | 株式会社ワンスペース |
事業名 | オンライン合同職場見学プロジェクト ~潜入!オンラインジョブツアー~ |
活動対象地域 | 沖縄県全域 |
資金分配団体 | 公益財団法人みらいファンド沖縄 |
採択助成事業 | みんなの配信と交流プラットフォーム |
ANA HP:https://www.ana.co.jp/ja/jp/brand/ana-future-promise/social-area/2024-04-10-01
「行政・自治体との連携をしていくための基礎講座」を資金分配団体、実行団体を対象に開催しました。当講座は、休眠預金活用事業の趣旨に賛同してくださったジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人グループ JAPAN COMMUNITY IMPACTを通じて、有志社員によるプロボノ支援プログラムとして実施しました。
活動概要
行政・自治体との連携や協働を目指している資金分配団体、実行団体の皆さんを対象に、「基本編」と「ワーク編」を2024年2月と3月にオンライン開催しました。現職経験を活かしNPOと行政の連携をサポートされている有志社員中西哲帥さんを講師に迎え、行政機関に「伝わる」提案について学びました。
活動スナップ
「基本編」では講師の中西さんから、行政・自治体と連携するために基本となる情報、実践に繋げていくポイントをお話しいただきました。また、資金分配団体、実行団体3組からは、政策提言の実例発表として、提案に至った背景や実現した内容、障壁をどう乗り越えたか等、現場での実体験を共有いただきました。
約100名の参加者からは、「行政への伝え方やアプローチ方法について具体的に学ぶことができた」、「座学と発表事例の内容が一致していたので説得力が高まり理解度が増した」、「講義を通じて得た知識や提案方法を参考に行動したいと思う」いった声があがりました。
<発表事例>
・特定非営利活動法人スペースふう
子ども支援事業の一環として、産後ママへのお弁当宅配事業が予算化予定。行政と連携中
・公益財団法人みらいファンド沖縄、株式会社ハブクリエイト
児童の部活動派遣費補助増額を提言。来年度から補助額拡充の動き
・公益社団法人ユニバーサル志縁センター
提言内容が改正児童福祉法に一部反映。2024年度施行予定

また、「基本編」参加者を対象とした「ワーク編」を約1ヶ月後に開催し、政策提言に活用できる「伝わる」資料づくり、およびその伴走支援をする際の視点を学びました。講師の中西さんから、資料をブラッシュアップするための着眼点をポイント解説いただいた後、グループに分かれて実行団体の提案資料(事前課題)を資金分配団体と対話しながら磨いていきました。講座の最後にはアップデートされた資料で全体発表を行い、フィードバックを受けました。
参加者からは「基本編の内容を踏まえ、実践の場で具体的なアドバイスをいただけて大きなヒントが得られた」、「論理の飛躍の部分を改めて行く上で、言語化するためのアプローチを丁寧にサポートしていく必要があると感じた」、「自分たちよがりな提案になりがちなので、三方よしを意識して今後は作成していきたい」といった前向きな感想をいただきました。
全2回の講座を通じて、主観と客観を柔軟に使い分けつついかにして自団体の提言を伝えるかを、他者の視点も借りながら検討する時間となりました。講師を務めていただいた中西さんの論理的でありながら熱量の高いお話は、情報や知識を得るだけではなく、参加者一人ひとりに考える機会を醸成する講座でした。
今回の活動スナップでは、山梨県富士川町で活動する実行団体スペースふう[資金分配団体: 富士山クラブ]の政策提言が実現したことを受け、活動の様子などをお伝えします。
活動概要
「リユースお弁当箱がつなぐ地域デザイン事業」は、山梨県富士川町で活動する実行団体スペースふうが2021年秋より、富士川町に住む「孤独」「孤立」を感じやすい産後のママさんをはじめ、子育て家庭を対象にリユース食器などを使用した宅配お弁当サービスです。この事業ではこれまでに、作る人、運ぶ人、情報発信する人など多くの人のサポートを受けながら、70人以上の産後ママに利用されてきました。お弁当は、地元の食材を使って作られた手作りで、自己負担金は1回100円で受け取ることができます。使用しているお弁当箱をリユースにすることで環境にもやさしく、届けるとき、容器を回収するときに産後のママさんや子育て中のお母さんとも多くのコミュニケーションを生み、社会との繋がりを感じられる事業が実施されてきました。
母親に配食支援 おむつ費も補助 | さんにちEye 山梨日日新聞電子版
政策提言

休眠預金活用事業で始まった宅配お弁当サービスが、助成期間の終了後も継続して行えるように政策提言がなされました。
政策提言が実現したことにより、産後のしんどさを個々で抱え、孤立しやすい時期の産後ママにとって、「産後うつ」「虐待」の手前の手前の予防策としても本事業は機能し続けます。また、行政の専門的な相談やサポートに加え、お弁当を手渡すときの何気ない言葉のやり取りが「この町の人たちの応援エール」として子育て家庭に届けられることで「安心して子育てできる富士川町」としてさらに町が充実し、発展していくことになると期待されます。
【事業基礎情報】
実行団体 | 認定特定非営利活動法人 スペースふう |
事業名 | リユースお弁当箱がつなぐ地域デザイン事業 |
活動対象地域 | 山梨県 峡南地域・中巨摩地域 |
資金分配団体 | 認定特定非営利活動法人 富士山クラブ |
採択助成事業 | 甲信地域支援と地域資源連携事業 ~こども若者が自ら課題を解決する力を持てる地域づくり事業~ |
JANPIAは、業務改善PT2023年度評価の在り方検討チームの成果物である報告書「資⾦分配団体⾃⼰評価の現状と今後に向けての提⾔」を公開しました。
業務改善PT2023評価の在り方検討チームの成果物
本報告書は、業務改善PT2023年度の評価の在り方検討チーム(資金分配団体有志メンバー)が、「事例からみる評価の本質」をテーマに議論した結果をまとめられたものです。
報告書では、2019年度事業の事後評価報告書を読み合わせて議論を重ねた結果、明らかになった3点の課題
①⾃⼰評価における⽬的設定と振り返り〜「誰のため、何のため」の評価か
②出⼝戦略をいかに評価するか
③⾮資⾦的⽀援をいかに評価するか
について紹介し、考えられる対応策を提⾔としてまとめられています。
今後JANPIAは、報告書にまとめられた事項を踏まえ、休眠預⾦活⽤事業における評価が、制度で求める意義や⽬的に則した形で⾏われていくよう、さらなる発展的な論議につなげて参ります。
報告書は、以下JANPIAホームページのリンクからご覧ください。
業務改善PT2023年度の評価の在り方検討チームの活動内容については、以下リンク記事をご覧ください。
千葉県北部の柏市、我孫子市、白井市、印西市などにまたがる湖沼・手賀沼。ここをフィールドに、地域の人々がつながり、縁をつくるコミュニティを運営しているのが「手賀沼まんだら」です。2019年の設立以来、イベントや場づくりに取り組んでおり、2020年と2022年度の休眠預金活用事業(コロナ枠)を活用したことで、コミュニティプレイスの創出や共食プロジェクトなど、さらに活動の場を広げてきました。今回は、「子ども」と「地域」をキーワードにはじまったという団体の取り組みや、設立から5年が経過してこそ思う活動のおもしろさ、今後の展望などについて、代表の澤田直子さんにお話を伺います。
子どもが成長して気づいた、地域コミュニティの重要性
「手賀沼まんだら」が設立されたのは、2019年1月のこと。代表・澤田直子さんが子育てを経験する中で感じるようになった、地域とのつながりに対する考え方の変化が、立ち上げの背景にはありました。
「子どもが成長して小学生になった頃、地元の公園で遊んだり、ご近所さんのお宅に伺うような機会が増えて、地域とのつながりを意識するようになりました。それまでは、手賀沼に暮らしていても、家族で遊びにいくとなったら他の市や他県のショッピングセンターやキャンプ場でした。けれども、小学生になった子どもたちは、どんどん地域に馴染んでいく。そういう環境の変化が、考え方の変化を生み出しました」

澤田さんは、当時、手賀沼ではない別の市の社会福祉協議会職員として勤務していました。地域同士のつながり、コミュニティをつくる重要性を誰よりも理解していた一人です。ところが、澤田さん自身地元の手賀沼一帯では、そういった地域内でのつながりがありませんでした。そこで、澤田さんは勤務していた社会福祉協議会を退職し、手賀沼でコミュニティづくりの活動をはじめることを決意。同じような課題感を抱えているママ友に声をかけ、「手賀沼まんだら」としての第一歩を踏み出したのです。立ち上げ初期の取り組みは、フィールドワークをはじめとした、子どもたちが手賀沼の自然や社会とつながりをつくる目的のアクティビティを中心としたものでした。その後、1年足らずでコロナ禍に差し掛かり、団体としての意思も変化していきます。「これまで学校に通っていた子どもたちが、急に家庭へと戻されました。いつまで休校が続くのかわからない世の中で、せめて子どもが楽しく過ごせる居場所をつくりたい。そう感じるようになり、一時のアクティビティやイベントだけではなく、長期的に子どもが集える場所づくりに取り組み始めました」 手始めとして、手賀沼の地主さんが所有していた山を一部借りて、子どもたちと一緒に山小屋やアスレチックづくりを行うことに。すると、澤田さんの目に映ったのは、家とも学校とも異なる、第三の居場所を知った子どもたちの朗らかな様子でした。子どもたちが安定的に集える空間をつくる重要性を感じた澤田さんは、休眠預金を活用した助成事業の公募に応募。本格的な居場所づくりへと舵を切ったのです。

二つの取り組みで休眠預金活用事業に採択
「手賀沼まんだら」では、応募した休眠預金活用事業で2度採択をされています。1度目が、2020年度コロナ枠として採択された、孤立解消の為のコミュニティプレイス〈ごちゃにわ〉の創出。コロナ禍を経て実感した、子どもたちの居場所をつくるための取り組みです。2度目は、2022年度コロナ枠として採択された、「共食」をキーワードに据えたプロジェクトでした。〈ごちゃにわ〉では、手賀沼一帯に暮らす子どもたちをはじめ、子育てに課題を抱えた父母、話し相手の欲しい高齢者、そして冬越しの場所を求める生物までもが集えることを目指した場所づくりを実施しました。澤田さんは、この空間づくりを経て、リアルな場が生み出す大きな影響を実感したといいます。「空間が生まれたことによる一番の変化は、地域の人々や地域にゆかりのある企業が頻繁に訪れるようになったことです。それによって、何気ない話から生まれる新しいアイデア、おもしろい企画などが数多くあり、それらをイベントとして実施するような流れができていきました。コミュニティの輪がどんどんと広まる感覚があり、手賀沼という地域で場づくりを行う喜び、やりがいを今まで以上に感じられるようになった気がします」
核家族化が進行する現代の日本、そしてコロナ禍という人との繋がりが希薄になりがちな状況では、家庭の悩みや困りごとをシェア、相談できる機会はそう多くはありません。けれども、地域コミュニティが生まれたことで、家族それぞれの困りごとを解消するタイミングができたり、これまでは経験できなかったさまざまな体験、アクティビティの機会をつくることができるようになりました。
「最初は、子どもたちが地域社会に溶け込める場所をつくりたいという思いばかりでしたが、実際に〈ごちゃにわ〉をつくってみると、お父さんやお母さんたちの居場所にもなっているように感じる場面が多々ありました。”子育て”という共通のキーワードがあるからか、場に集う親御さんたちも、知らず知らずのうちに仲良くなり、助け合える仲になっていたようです」最初こそ、実験の意味合いもあり、こぢんまりとした運営を予定していた〈ごちゃにわ〉。ところが、澤田さんの想像以上に、そういった場を必要とした地域の人々は多かったようです。現在では、小中学校の林間学校や、総合学習の授業の一環で〈ごちゃにわ〉を活用したいといった申し出が多数集まるほど。年間では600人以上の子どもが集う、手賀沼屈指の居場所として成長しました。

子どもたちの「食」の関心をどう高めていくのか?
「手賀沼まんだら」では、その後も、〈ごちゃにわ〉の運営だけでなく新しい取り組みも実施しています。特に、現在推し進めているのが、2022年度コロナ枠にて採択された「共食」のプロジェクト。手賀沼の豊かな自然を活用しながら、子どもたちの食に対する関心を高めることを目的に実施しています。「〈ごちゃにわ〉を運営しながら次なる取り組みを考えているなかで、衣食住の”食”にフォーカスを当てたいと考えるようになりました。暮らしの根本的な要素であると同時に、食は人の心を癒やしたり、コミュニケーションを生み出すきっかけになると思ったからです。「ごちゃにわ」を始めたときから、食が与える影響の大きさを実感していました」


このプロジェクトでは、手賀沼の風土に対する学びや食育を促進するため、5つのステップでプログラムを実施しています。子どもたちが参加することはもちろん、親御さんや近隣の農家さんの協力を仰ぐことで、地域コミュニティにおける多様なつながりをつくり出すことも目指しました。
① 〈ごちゃにわ〉内で食材を育て、収穫する
②手賀沼 流域農家さんから食材を購入したり、農作業を手伝ったり、思いのヒアリングなどを行う
③ 入手した食材を使ってどんな料理をつくるのか、メニューを考える
④ 食材の持つストーリーや思いを伝えるため、月に一度〈ごちゃにわ〉内で子どもレストランをオープンする
⑤ 月に一度、親子のエンパワメントの場として「食」に関する研修を開催する
「学校や習い事、塾などで忙しい子どもたち、忙しく働く親たちと話をする中で、家庭での「食」に対する重要度が下がってきていることを感じていました。それなら調理の機会を家庭以外の場所でも体験できないかなと考えるようになりました。」
そういった背景から、食材を知る機会、調理を学ぶ機会、食文化に触れる機会などを用意した、多角的なプログラムを実施しました。手賀沼には、生き物と畑の共生を目指す農家さんや、安心安全においしく食べられる平飼いニワトリの農家さんなど、一次産業に携わる魅力的な人々も数多くいます。そういった人の協力を仰ぐことで、子どもたちが「食」を知る、考える機会創出を目指しました。

自走しながら地域社会に溶け込む子どもたち
このプロジェクトを実施する際、澤田さんは、子どもたちに「与える」だけではなく「創り出してもらう」ことも意識しているそうです。それは、能動的に関わる機会を用意することで、子どもたちの成長を促したいという思いから。
具体的には、2〜3回ほどプログラムに参加してくれた子どもに、参加者としてだけではなく運営者として仕事を任せることで、プログラムを創る側に回ってもらっているのだそう。その役回りは、イベントの様子を撮影するカメラマン係、プログラム内で使用するノート作成係など、多岐にわたります。
「子どもたちの興味関心に触れる機会を少しでも多くつくるためと思って始めたことですが、彼らに仕事を任せてみて、大人があっと驚くような成長を遂げてくれるのだと知りました。たとえば、カメラマンを担当してくれている子が、SNSに投稿された写真を見て、『こんなカットがあったほうがわかりやすいはず』と撮影プランを考えてくれたり、ノート作成係の子は『このページにはこのイラストがあったほうが楽しんでもらえるかな?』と、アップデートプランを提案してくれたり。自主的に次のレストラン開催に向けてオリジナルレシピを考案してきてくれた子もいたほどです」
最初は受け身でプログラムをこなしているだけだった子どもたちが、高いモチベーションを抱きながら、自分自身の得意なことを活かして運営に携わってくれる。想像をはるかに上回る子どもたちの成長には、澤田さんをはじめとした、大人のほうが圧倒されるばかりだといいます。
「ほかにも、今まではお兄さん、お姉さんに頼ってばかりいた低学年の子どもたちが成長する様を見ることも多々あります。プログラムによっては、幼稚園生や小学1〜3年生のみを対象とする場合があるのですが、そういったときに率先して動いてくれるのは、今までなにもできなかったように見えた小学校低学年の子どもたち。高学年がどう助けてくれていたのかをよく見ていて、幼稚園生の子どもたちのサポートをしながら、主体的な姿勢で運営に携わってくれています」
「食」というキーワードを起点にはじまったこのプロジェクト。もちろん、プログラムを経て、食に関する学びや意識の変化も見られています。ただ、それ以上に、環境さえあればどこまででも変化できる子どもたちの無限の可能性を知る機会にもなったそう。共創による、地域コミュニティの大きな力を、この取り組みを通して、澤田さんは実感しています。
「手賀沼まんだら」が思い描く未来
2019年の設立から5年。時代の潮流にあわせて数多くの取り組みを行ってきた「手賀沼まんだら」ですが、現在は、将来を見据えた戦略立案、プロジェクト企画なども推進しているタイミングです。それにあたっては、資金分配団体であるNPO法人ACOBAが提供する、専門家派遣も活用しているのだそう。
「『手賀沼まんだら』を運営しているメンバーは、現在、私を含めて5名。そこに、6人目として戦略立案やマーケティングの得意な専門家を一時的に招き、団体の方向性や意思を表すための”ビジョンボード”というものを制作しています」

ビジョンボードとは、今まで文脈や空気感のみで意思疎通されてきていた、団体の役割や意味を可視化して表現した絵図。「手賀沼まんだら」に携わる人の数、規模が大きくなってきている今のタイミングで、価値観をお互いに共有するべく制作したものです。こうした具現化を行うことで、「手賀沼まんだら」の歩む未来も、より明確化してきています。
「『手賀沼まんだら』を立ち上げたことで、地域コミュニティの重要性を改めて実感する機会になりました。現在、取り組んでいるプロジェクトは、引き続き継続していきたいと強く思いますし、子どもたちをはじめ、手賀沼の人々のよりどころになりたいとも感じています。けれど、組織を大きくしたいという野望はあまりありません。ただ、必要としてくれる人にとっての居場所になれたら。そういうシンプルな願いを再認識できました」
学校や家庭だけではない、サードプレイスとして機能できるように。恵まれた自然との触れ合いや、子どもたちとのコミュニケーションが促進される場として、これから先も「手賀沼まんだら」は歩みを続けていくのでしょう。
「私たちのこの取り組みは、手賀沼だから実現できたものではなく、日本各地で実現できるようなものだと思います。そして、こういった場所を必要としている子どもたちはきっと全国にたくさんいる。もっと暮らしやすい世の中を実現するために、日本各地にこうした地域コミュニティが誕生してほしいと、今まで以上に願うようになりました」
澤田さんの願いが伝播し、人から人へとつながって大きな輪として成長したのが「手賀沼まんだら」。思っていたよりもずっと、その輪は強固で、豊かで、未知の価値を教えてくれたものでした。だからこそ、そうした共感が広がることでつくられる、心強く、力強いコミュニティの誕生を乞い願い、澤田さんは今日も「手賀沼まんだら」の活動を続けています。
【事業基礎情報①】
実行団体 | 手賀沼まんだら |
事業名 | 孤立解消の為のコミュニティプレイスの運営 |
活動対象地域 | 千葉県 |
資金分配団体 | 特定非営利活動法人 ACOBA |
採択助成事業 | 2020年度コロナ枠 |
【事業基礎情報②】
実行団体 | 手賀沼まんだら |
事業名 | 手賀沼版「美味しい革命」〜食べることは生きること〜 |
活動対象地域 | 手賀沼流域(我孫子市、柏市、松戸市、流山市) |
資金分配団体 | 特定非営利活動法人 ACOBA |
採択助成事業 | 2022年度コロナ枠 |
有限責任事業組合まちとしごと総合研究所 2022年度休眠預金活用事業「京都の若者へ寄り添うアプローチによる生きる基盤支援事業」で採択された実行団体 特定非営利法人happinessの代表 宇香 明香さんのインタビュー動画をご紹介します。
「業務改善PT(プロジェクト)」とは、指定活用団体であるJANPIAと資金分配団体が、よりよい休眠預金活用事業を作り上げていくために、改善内容ごとに検討・議論など行う活動です。今回は業務改善PTの参加メンバーの提案から生まれた「不動産研究会」についてご紹介します。
2023年度業務改善PT「不動産研究会」について
本研究会は、業務改善PTに参加する資金分配団体の提案から生まれました。
助成事業における「不動産」の取り扱いについて、これに関心を持つ資金分配団体の皆さまと議論します。今後に向けた考え方などを整理し、社会課題解決の手法として不動産取得が将来的に持つ意義や可能性についてアウトプットすることを目標とします。
今年度の「不動産研究会」は、9団体10名 の資金分配団体有志メンバーで構成され、2023年度は全2回、オンラインにて開催しました。
※不動産研究会は複数年度にわたり活動し、調査・研究・提言を行う予定となっております。
活動報告
2023年11月8日 第1回検討会(キックオフミーティング)
アジェンダ
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[議論概要]
・助成金で不動産を取得することについての課題について意見交換を行いました。
・意見交換を行う中で、今後の検討に必要な調査内容・方法について整理がなされました。
2024年1月17日 第2回検討会
アジェンダ |
[議論概要]
- ・調査票案についての設問の追加や修正が行われました。特に、資金分配団体と実行団体では不動産取得に関する立場が異なるため、双方の状況や対応について理解の深まる調査票となるよう意見が交わされました。
- ・また、不動産取得における適切な管理とはどのような状態であるか確認や定義していく必要性についても議論がなされました。
資金分配団体と指定活用団体であるJANPIAが、よりよい休眠預金活用事業を作り上げていくために、共に取り組む「業務改善PT(プロジェクトチーム)」。2023年度の活動を紹介します。
業務改善PT(プロジェクトチーム)とは?
2020年末に開催された、2019年度 資金分配団体22団体の代表者とJANPIAの役員との意見交換会で明らかになった「業務改善の必要性」がきっかけとなり、資金分配団体と指定活用団体であるJANPIAが共に業務改善に取り組むプロジェクトチームが発足され、2021年度より本格的に取り組まれてきました。また、内閣府の「休眠預金等交付金活用推進基本計画」に、2022年度より業務改善PTの位置づけについて明記されるなど、業務改善PTの活動に期待が寄せられています。
内閣府休眠預金等交付金活用推進基本計画 (PDF)[外部リンク]
2023年度の動き
2023年度は新たなチーム編成で取り組みを開始
2023年度に対応すべき事項について、新たな体制で業務改善の取り組みを加速させていくことを目的に全資金分配団体の皆さまへ新たに検討チームへのご参画を呼びかけて、メンバーを募り、昨年度の20団体32名を超える「29資金分配団体63名」から参加の申し出を受けました。
<参加29団体(五十音順)>
特定非営利活動法人エティック /岡山NPOセンター /公益財団法人京都地域創造基金 /一般社団法人グラミン日本/NPO法人こどもたちのこどもたちのこどもたちのために/特定非営利活動法人困窮者支援ネットワーク/公益財団法人佐賀未来創造基金 /一般財団法人 社会変革推進財団/特定非営利活動法人ジャパン・プラットフォーム/認定NPO法人 全国こども食堂支援センター・むすびえ /一般社団法人全国コミュニティ財団協会/公益財団法人泉北のまちと暮らしを考える財団 /公益財団法人地域創造基金さなぶり/NPO法人地球と未来の環境基金 /一般財団法人ちくご川コミュニティ財団/中国5県休眠預金等活用コンソーシアム/株式会社トラストバンク/公益財団法人長野県みらい基金/公益社団法人日本サードセクター経営者協会 /公益財団法人パブリックリソース財団/B&G財団 /公益財団法人東近江三方よし基金/NPO法人ひろしまNPOセンター /プラスソーシャルインベストメント株式会社 /認定NPO法人北海道NPOファンド/有限責任事業組合まちとしごと総合研究所 /公益財団法人みらいファンド沖縄/一般社団法人ユヌス・ジャパン/READYFOR株式会社
チームの検討内容は、2023年度に行われた「休眠預金等活用制度の5年後見直し」と「2019年度採択事業が完了」を受け、以下の3つのチームと1つの研究会が設定されました。
■団体の基盤強化等に関するチーム (12団体14名)5年後見直しを受け、新たに制度設計をされた活動支援団体について検討4年間の休眠預金活用事業を振り返り、組織基盤強化や人材育成等の進捗を検証、今後の方向性について議論 |
■出資プロジェクトチーム(14団体15名)5年後見直しを受け、解禁された出資事業に関し、制度の活用などについて等についての意見交換 |
■評価の在り方検討チーム(12団体14名)19年度採択事業等、事業が完了した団体による事後評価報告書などを読み合わせ、評価の在り方を議論し、評価の本質について整理評価に関するヒントやアイデアの蓄積を目指す |
■不動産研究会(9団体10名)助成事業において不動産などの取得を行った事業の成果・効果の検討等 |
各チームの取り組のご紹介
リンク先で各チームの動きをご紹介しています。ぜひご覧ください。
「業務改善PT(プロジェクト)」とは、指定活用団体であるJANPIAと資金分配団体が、よりよい休眠預金活用事業を作り上げていくために、改善内容ごとに検討・議論など行う活動です。今回は2023年度業務改善PTの「団体の基盤強化等に関するチーム」の活動内容をご紹介します。
2023年度業務改善PT「団体の基盤強化等に関するチーム」について
5年後見直しを受け、活動支援団体が制度設計され、具体化していく過程において、事務局における検討結果へのレビューや、アイデアの提供を行っていただきました。また、休眠預金活用事業の4年間を振り返り、組織基盤強化や人材育成などがどこまで進んだのかを検証し、今後のとるべき方向性等の議論を交わしました。
今年度の業務改善PT「基盤強化チーム」は、12団体14名の資金分配団体有志メンバーで構成され、全日オンラインにて開催しました。
活動報告
第1回キックオフミーティング 2023年7月3日
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[議論概要]
- 現行の制度・体制の確認と新たな制度である活動支援団体に関して説明を行いました。
- 今後開催される業務改善PTで議論すべき課題に関して意見交換を行いました。
第2回検討会 2023年7月24日
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[議論概要]
- 複数の視点からの意見が出たため、テーマを分けて第3回の検討会までに、少数の有志メンバーによる議論を進めていただくことに同意をいただきました。
意見の例
(・資金的支援と非資金的支援は表裏一体であり、切り離して実施できるのか
(・活動支援団体の支援先がどのような団体となるのかイメージができていない
(・活動支援団体が支援を行う内容にはどんなものが含まれるのか

第3回検討会 2023年10月2日
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[議論概要]
以下のテーマの内容に沿って議論が交わされました。
テーマの内容
- テーマ1:活動支援団体が行う事業とは何か
- テーマ2:支援プログラムの実施形態はどのようなものが考えられるか
- テーマ3:助成対象期間の考え方
- テーマ4:助成対象経費
今回の議論で確認されたこと
テーマ1:活動支援団体が行う事業の要点は、資金分配団体との役割分担として、基盤強化を補完し、実行団体の成長を支援すること、実行団体の担い手育成を行うことである。

第4回検討会 2023年10月17日
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[議論概要]
前回に引き続き、テーマに沿って議論が交わされました。
テーマの内容
- テーマ5:活動支援団体の支援先に対する選定
- テーマ6:透明性を確保する仕組み
今回の議論で確認されたこと
テーマ5:支援対象団体の選定方法については各地域の状況や事業の目的によって、公募・選定を行う必要がある。具体的な支援メニューや関係性の構築を重要視する。
テーマ6:活動支援団体が、資金分配団体や実行団体を兼ねる場合には、資金管理面、支援対象団体の選定面での透明性を確保するために、役割の明確化や情報発信が必要であり、選定プロセスや支援内容の整理が重要である。
第5回検討会 2023年11月13日
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[議論概要]
- 活動支援団体の位置づけ、行政によるNPO支援施策との関係性、地域間の支援格差等について議論が行われ、地域のニーズに沿った支援の必要性について具体的な制度設計の内容にも発展しました。
- 活動支援団体の支援規模については、段階的に支援を展開していく必要性や地域課題の解決に向けた継続的な取り組みに適切な資金の設定が必要ではないか、という議論がありました。
第6回検討会 2023年12月19日
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[議論概要]
- 既存の資金分配団体による非資金的支援との兼ね合いや、活動支援団体が資金分配団体や実行団体を兼ねる場合の整理について、支援の重複や支援対象を選定する際の公平性などの観点から議論が交わされました。
- 活動支援団体の評価について、実施タイミングや方法、費用負担について議論が行われました。