深刻な社会課題とされる「不登校」「いじめ」「ひきこもり」。その当事者に対する支援は、あらゆる場所で必要とされています。2020年度緊急支援枠・資金分配団体である神奈川子ども未来ファンドの 「子ども・若者支援事業新型コロナ対応助成」で採択された『農園を活用した子ども・若者支援事業』を実施する実行団体「特定非営利活動法人 子どもと生活文化協会(CLCA)」(神奈川県小田原市)は、地域の豊かな自然を生かして、それらの課題に向き合っています。今回は子どもと生活文化協会の元会長であり、現顧問の和田 重宏(わだ しげひろ)さんに、その事業に込めた思いを伺いました。”
体験でしか得られないものを子どもたちに
「子どもたちと大人が対等な立場で様々な活動を展開し、子どもがいかなる環境に置かれてもたくましく生きていく力を身につけてほしい」という考えのもと、1992年に設立された『子どもと生活文化協会(CLCA)』。まだ子どもたちの社会教育の場が少なかった当時、学校教育に週休2日が導入された際に子どもたちの休日の生活の受け皿として発足しました。
和田さんのお父様が戦前に創設された生活寄宿塾「はじめ塾」の一時的共同寄宿生活による教育を受け継ぎ、CLCAは体験型活動を重視しています。
お話を伺ったCLCA顧問の和田 重宏さん

もう一つ大切なのは、体験型活動の必要性です。今の子どもたちの生活には動画やゲームなど、バーチャルな世界が多くなっています。つまり子どもたちは体験不足の状態です。また今の教育では「よく考えなさい」と教えるが、「考える」だけでは足りません。考えて、行動を起こす「決断力」が大切なのです。しかし「決断する力」は教えることが難しく、体験の中でしか体得できないと考えています。ですから私たちは、体験でしか得られないものをCLCAで提供したいと考えました。」(和田さん)
今の教育には考えを行動に移す「決断力」を身につける過程が抜け落ちがち。それを補うのが自然を通した生活体験活動なのでは、と和田さんは語ります。
若者と大人の信頼関係を、「体験活動」を通じて再構築
CLCAの活動は、子どもたちとその家族を対象とした「親子体験型食育菜園」や「山の生活体験合宿」、不登校やいわゆる「ひきこもり」の若者の相談窓口やカウンセリングなど多岐にわたります。働く意思のある若者の就業支援をする「サポートステーション」も運営していますが、そのような若者は、ひきこもり状態の若者の数からすると氷山の一角とのこと。現在は、長期にわたって不登校・ひきこもり状態にある若者たちへの支援に多くの時間を割いています。
「ひきこもりや不登校の根っこは一つだと思っています。それは、親や大人、世の中への不信感が非常に強いということです。ですから、まずは「ひきこもる時間も、あなたにとって必要な時間だったよね」など若者たちの存在を肯定し受け止める。そして相談に応じてもらえるように働きかけます。しかし相談だけでは、解決しないことを我々も体験的に知っています。
そこで、コロナ禍でひきこもりなどの社会課題がより深刻化していることをきっかけに、休眠預金を活用して、これまで主に子どもたちとその家族向けに行っていた農園活動と「ひきこもり」の若者たちの支援を結び付けることにしました。これは、これまでもやりたいと思っていてなかなかできていなかったことですが、ようやっと実現できました。
農園の入り口には休眠預金活用事業の事業名の看板も(右側)
対等で分け隔てのない活動を通して、周囲に貢献する喜びを
最近、教育の分野において「インクルーシブ(当事者を含めた)」という言葉を耳にしますが、それはまさにCLCAで重視していること。
「今の福祉行政では、『支援をする側』と『支援を受ける側』とが分かれていますが、私たちの活動では、両者が混在しています。もちろん名札はつけていますが、ぱっと見て誰がひきこもりや不登校の経験者で、誰がボランティアなのかはわかりません。そこに参加している方々はみんな対等です。」(和田さん)
今回の事業も、たくさんのボランティアさんや当事者を抱えた家族がかかわっており、ひきこもりや不登校の若者を社会から隔離してトレーニングするのではなく、社会そのものの中で対等なコミュニケーションが持てるようになることに重点を置いて実施しているとのことです。

「ひきこもり経験者で農園活動をしている若者に、『君は今、支援を受けている側なの?どう思う?』と聞いたんです。すると彼は『今僕には人の役に立っている実感があるので、ここに来たら自分が支援を受けているという意識はあまりないんです』と語ってくれました。これはとても大事なことだと思います。
このように若者たちが農園での活動を通して、自分の役割を見つけ、周囲から頼られ、やりがいを実感する。2020年11月からこの休眠預金活用事業を始め、休むことなく参加してくれた若者の就労に結びついたり、不登校だった児童が学校に通えるようになったりと、活動の成果も現れ始めています」(和田さん)
専門性の高い相談員の育成など活動の継続に向けての課題は多いとのことですが、それらの課題も経験豊かなボランティアの皆さんの力を借りながら解決の糸口を探し、着実な活動を進めているCLCA。これからも活動を通じて、多くの子どもや若者たちの「小さくも大きな一歩」を応援し続けていきます。
■休眠預金活用事業に参画しての感想は?
今回の活動が休眠預金活用事業だということがきっかけで事業に興味を持って頂き、そこから参加に至ったケースが数件ありました。新たな方々の参加につながったことは、よかった点ですね。また、休眠預金活用事業では、細かい対象者の指定がなく、これにより我々が自由度をもって活動を組み立てることができたことが有難かったです。(和田さん)
■資金分配団体POからのメッセージ
元ひきこもりの青年たちが農園に出てきて、伴走支援をするボランティア・子育て中のお母さん・地域の子どもたちと共に農園体験をする。ただそこから更に就労に繋げるのは本来とても難しいこと。にも関わらずそこまで道筋をつけてくれているCLCAさんの活動は、本当に素晴らしいものです。(特定非営利活動法人 神奈川子ども未来ファンド)
【事業基礎情報】
実行団体 | 特定非営利活動法人 子どもと生活文化協会(CLCA) |
事業名 | 農園を活用した子ども・若者支援事業 |
活動対象地域 | 神奈川県 |
資金分配団体 | 特定非営利活動法人 神奈川子ども未来ファンド |
採択助成事業 | 『子ども・若者支援事業新型コロナ対応助成』 〈2020年新型コロナウイルス対応緊急支援助成〉 |
新型コロナウイルス感染症の影響を受け、不要不急の活動停止を余儀なくされたことで、老若男女問わず、心も身体も疲弊する日々が続く昨今。資金分配団体である「みらいファンド沖縄」では、休眠預金を活用して子どもたちを支援する実行団体からの取り組み報告を通じ、彼らが抱える「困りごと」を明確にし、どのような改善策があるのかを2回にわたる「円卓会議」で検討しました。
地域の「困りごと」を社会課題として捉える 「地域円卓会議」の仕組みとは?

オンラインでの意見交換を取り入れつつ、全2回開催された本会議は、公益財団法人みらいファンド沖縄が過去10年間で開催してきた「地域円卓会議」の94回目、95回目にあたります。みらいファンド沖縄では、こうした会議を地域の「困りごと」を社会課題として共有・共感する場(イシューレイジング※1)として定義し、それぞれが抱える課題、そして社会課題を市民がしっかりと受け止め、議論ができる場所として参加者を募っています。
※1 「イシューレイジング」とは?・・・・・・「イシュー=テーマ」を世の中に認知してもらうことを指す。
特筆すべきは、「円卓会議」と呼ばれるスタイルで開催されている点。論点提供者と着席者と呼ばれる各関係分野の専門家を中心に参加者が円を描くように丸く座り、それを一般参加者であるオーディエンスが取り囲むスタイルで進行します。
今回の会議の第1回(円卓会議の94回目)は、『みらいファンド沖縄』の副理事長・平良斗星氏のあいさつからはじまり、休眠預金活用事業の資金分配団体として資金的支援・伴走支援をしている5つの実行団体の代表者が論点提供者となり、センターメンバーと呼ばれるパネリスト(着席者)3名を迎え、オーディエンスはオンラインにて参加するという形で実施されました。
各支援団体の現場報告から考える、 コロナ禍における子どもたちの放課後の過ごし方の変化
第一回の「地域円卓会議」のテーマは、「コロナ禍において、子どもたちの放課後の過ごし方はどう変化したのか?各現場の報告から考える。」です。
会議は、休眠預金を活用した「新型コロナウイルス対応緊急支援助成事業」の一環として開催され、各実行団体が1年後の事業目標として、それぞれの事業を継続できる体制を整え、社会的に孤立する人々の支援、またその取り組みによって課題の明確化と社会との共有を目指すというもの。それぞれの現場の声をもとに新しいセーフティネットの政策提言の発信を行っていきます。
会議の大きな流れは、論点提供者(6名)から、現在子どもたちと関わる各団体が抱えている課題や疑問に対しての解決策などを、地域の方、またステークホルダに対して論点を話すことからはじまりました。テーマに基づいて論点提供者(前述の各実行団体の発表者)から実際に取り組んでいることと、解決に向けた意見(セッション)が出されると、これらを踏まえて、センターメンバーである各分野の専門家によるコメントを受け、次に幾つかのグループに分かれた一般の方々に討論をしていただくサブセッションを実施。最後は各グループの代表者による意見発表を通じ、再びセンターメンバーたちがテーマを掘り下げていきます。

こうした会議内の様子や意見は手書きの記録が残され、パネリストからオーディエンスまで全員で振り返りができる仕組みになっています。テーマや取り組みに対する認識を改めて深められるのも大きな魅力の一つです。
参加した実行団体の方々は、いずれも、沖縄県内で学童や児童館、不登校やひきこもりなど、地域に密着して支援を行っている皆さんです。初回は6団体のうち子ども関連の活動をしている5つの実行団体による現場の活動と成果・課題などが発表され、二回目の会議には5つの実行団体からの報告をもとにそれを深めた議論をして、政策提言につなげるための議論が行われました。
大切なのは子どもの視点で考えること。行政と民間支援の連携で「困りごと」の解消を目指す

各実行団体の取り組み報告を通じて、コロナ禍におけるさまざまな制約によって間接的に子どもたちの時間が奪われたことから、生活リズムの崩れ、DV、ネグレクトといった深刻な問題が浮き彫りになりました。
その反面、音楽を通じた成功体験から自信を取り戻していく姿、ICT化で不登校やひきこもりの子どもたちに新たな道を示せたこと、さらに少人数での預かりを実施した学童保育などではトラブルも軽減し、施設内はもちろん、家庭内でも子どもたちと丁寧に向きあうことができたなど、子ども一人ひとりに最適化したケアの視点が得られたといった結果報告が上がりました。


こうした現場の意見を踏まえ、沖縄大学の島村先生をはじめとする着席者は、子どもの視点で考えることの重要性、また市民が議論をして行政にあげることも大切だが、市民活動でどこをどのようにフォローしていくのかを検討することも非常に重要であると投げ掛けます。
また一般参加者による発表を受け、各支援団体の方からは、こうした円卓で支援者間のネットワーキングができることで行政と繋がる際の座組を想定できること、加えて、各団体が行政に話をしにいくことを遠慮し過ぎていたことも課題点としてあげ、行政と民間で得意なことを活かした連携ができるような仕組みづくりを目指すべきといった感想もでていました。
子どもの権利保障やケアの重要性を再認識 。「円卓会議」を終えて見えてきた今後の課題
進行を務める平良氏より、二回の会議を総括する最後のまとめとして「緊急時の優先順位で行政はやるべきことが多い。そんな中で、それでも重要な子どもの権利の保障、ケアのための「連携」を「有機的に」していくためには、どのような権限移譲、そして予算設定をすればよいのか?」という問いが立てられました。
着席者からは、「学校と福祉、それぞれが持つ子どもたちの情報を一元化して管理できるような専門セクションを作るべきである」といった意見がだされました。これは、まさに今話題の子ども庁の構想と重なる内容であり、現場で強く求められていることを再認識することができました。
行政に対しては、アウトプット指標だけではなく、アウトカム指標を見て欲しいという評価に関連するニーズがあること、加えて民間の支援者たちとの連携や支援における権限についての意見も多くあがり、継続的な課題として検討を重ねていくことになりそうです。
■資金分配団体POからのメッセージ
子どもの居場所活動は多岐にわたっています。本事業においても、厳しい環境におかれた子どもたちを主とした対象とする、公民館活動の中の学童、児童館、子ども食堂、放課後音楽活動などさまざまです。現場で日々子どもたちに接している実行団体の報告は迫力もあり、子どもたちへの愛が詰まっていて、大変興味深い内容でした。私たちはこうした円卓会議などを通して、相互に学び合いつつ、共通の課題について話し合い、コロナ後の活動に繋げることを目指しています。
(公益財団法人みらいファンド沖縄『コロナ禍で孤立したNPOとその先の支援』事業 / 鶴田厚子氏)
この会議の様子はアーカイブとしてYouTubeで視聴可能です!
【事業基礎情報】
資金分配団体 | 公益財団法人みらいファンド沖縄 |
助成事業 | 『コロナ禍で孤立したNPOとその先の支援~アフターコロナに必要な団体の存続のために』 〈2020年新型コロナウイルス対応緊急支援助成〉 |
活動対象地域 | 沖縄県 |
実行団体 | ・特定非営利活動法人1万人井戸端会議 |